ブログパーツUL5 『絵の家 2017』活動報告 | 狩野宏明  つぎはぎの奥行き
日々の制作と生活
『絵の家 2017』活動報告

あっという間に年末です。

今年の活動を振り返る間もなく過ごしてきましたが、

ようやく年内の授業も終了したので、

来年に向けて総括してフィードバックしていきたいです。

 

奈良教育大学絵画研究室の活動の目玉となっている

『絵の家』プロジェクト。

 

2017年10月27日〜11月5日に開催された

「奈良・町家の芸術祭 はならぁと2017」を舞台として、

展覧会と関連イベントを実施しました。

 

 

 

『絵の家』は奈良教育大学絵画研究室が中心となって企画する

絵画表現と美術教育に関するプロジェクトとして

2016年にスタートしました。

「絵を見る・描く・学ぶ複合的空間」を基本コンセプトとして、

学生やアーティストそしてワークショップ参加者などの作品展示と

会期中の日替わりワークショップなどを展開しています。

 

2017年のプロジェクトでは、

「物質と記憶のパースペクティヴ」をキーワードに、

私たちが生きる物質的世界と私たちの思いや記憶との出会い

によって形作られる個々のパースペクティヴ(視点)を

多角的に結合し、開催エリアとなった今井町を舞台として

持続的な未来へのパースペクティヴ(展望)を提示する

創造的な活動を目指しました。

 

基本コンセプトと展示テーマの詳細は下記URLより

ご覧いただけます。

https://www.facebook.com/weareENOIE/videos/305122126632323/

 

今年の展示では、参加アーティスト(3名)と学生(10名)の

個人制作の作品を中心に、会場となった奈良県橿原市今井町の

景観支援センターにて、それぞれの作品を会場の展示スペースや

今井町の地域性とどのように関係付けて提示するかを

メンバー全員で話し合いながら準備を進めました。

 

以下、それぞれの展示スペースと出品者を紹介します。

 

 

 

 

 

会場となった景観支援センターは、約160年前に建造された

伝統的な町家造りの2階建ての建物。

1階は坪庭へと続く通路(通り庭)と、

入り口から「みせの間、「中の間」、「奥の間」の

3部屋があります。

また2階へと続く階段を上ると、町家ならではの低い天井を持つ

「つし2階」があります。

 

それぞれの部屋に参加メンバーの作品を展示し、

大小の作品すべて合わせると100点以上になりました。

 

「みせの間」↑

入り口から入ってすぐの板の間。

「見せの間」、「店の間」とも表記され、古くは売り物を並べたり

お客様を最初に迎える場所として使用されていました。

『絵の家2017』では参加メンバーの小品を展示するとともに、

日替わりワークショップや団欒の場所として活用し、

ご来場の方々を迎える賑やかな場所にしました。

 

 

 

上段左から:木村(大学院1回生)、李(研究生)

そして右上の風景画は、

今井町ご在住で町並みを描き続けている中井良雄さんの作品。

展示準備中に現場を覗いていただき、

急遽作品をお借りしました。

地元で描き続ける画家と直接絵を並べる貴重な機会となりました。

 

中段左から:成田(3回生)、山下圭介さん(アーティスト)、

      成田(3回生)×4点

 

下段左から:中島(4回生)、長友(大学院1回生)、

      東(4回生)×2点、長友(大学院1回生)×2点

 

 

 

 

 

「中の間」

入り口から2番目に位置する部屋。

 

東(4回生)、成田(3回生)、李(研究生)が展示構成を担当。

 

奥の絵画作品:東(4回生)

グラフィティ・アートを参照しながら、

自身を取り巻く社会、家族、教育、奈良の地について

ユーモラスな言葉遊びと絵解きを含むイメージを描いています。

展示終了後は、L字型の面に加え、天井と床面を追加で制作し、

部屋の形をした卒業制作へと展開しています。

 

クマのオブジェ:成田(3回生)+附属小学校児童 共同制作

制作を通して、にじみを生かした水彩表現などの技法研究や、

手芸とアートの領域横断的研究を行っています。

小学生と大学生が共同で布に動物の絵を描き、成田(3回生)が

ミシンを使って巨大なクマのぬいぐるみに仕立てました。

 

手前の円形の小品連作:李(研究生)

現代の「可愛さ」やファッションをテーマに

デジタルイラストレーションを制作。

今年の『絵の家』のフライヤーデザインも手がけ、

自身の世界観を多様な形式で提示することを試みています。

 

3名のメンバーによって構成された「中の間」は

ポップでフォトジェニックな空間になり、来場者の方々も

写真撮影をして楽しんでくださいました。

 

 

 

 

 

「奥の間」

入り口から3番目の部屋。

長友(大学院1回生)と木村(大学院1回生)の2名が展示構成を担当。

 

床、床の間作品:長友(大学院1回生)

現職教員として大学院で研究を行っており、

作家活動も勢力的に展開しているメンバー。

チョークやパステルをすりつぶして自作の絵の具を作り描画する

独自の技法で、子供達の姿を描いています。

会場に来た子ども達と同じ目線で展示するため床置きに。

作品が展示されることによって、

かつて子ども達が暮らしていたであろう空間の記憶が

可視化されているようで、

実際に会場に来た子ども達がそこで戯れる様子は、

ちょっとぞくっとする光景でした。

 

 

 

床の間にも作品が。

近くに寄らないと白紙に見えるほど繊細なイメージは、

床の間の形式を浮き彫りにすると同時に

「中の間」の賑やかさとのコントラストで

ふと吸い込まれるような静謐さと

自身の感覚をプロジェクションする隙間が生まれていました。

 

 

 

 

天井から吊るされた作品:木村(大学院1回生)

透明シートにガラス絵の具を用いて明確な輪郭線と色面による

作品を制作。

一見抽象的な作品に見えますが、作者自身が明確にイメージできる

具体的な対象と物語が描かれています。

一筆描きで描かれた輪郭によって切り取られる塊は、

室内風景を借景として空中に浮遊しています。

ガラス絵の具が、照明や日光に照らされて

ステンドグラスのような独特な色彩を放っていました。

 

 

 

 

「通り庭」

奥の庭へと続く一直線の通路部分。

 

福崎翼(招待作家)と梁(大学院2回生)が展示構成を担当しました。

 

梁(大学院2回生):

奈良で取材した植物をモチーフとして細密なペン画を制作。

修了制作の一部となる小品を天井から吊るして展示し、

修了制作の大作を会場で公開制作しました。

会場入り口付近で制作しながら、来場者と交流し、植物とペン画の魅力を

存分に紹介していました。

 

梁さんと「奥の間」の木村さん、長友さんは

地元のケーブルテレビ番組にも出演し、自作や『絵の家』プロジェクト、

「はならぁと」について紹介してくれました。

オンラインで視聴可能ですのでぜひご覧ください。

KCN(近鉄ケーブルネットワーク)のテレビ番組「Kパラnext Tuesday」

(16:43〜24:27, 27:34〜30:01)

https://jimotv.jp/products/movie_detail.php?product_id=8009

 

 

 

 

福崎翼(招待作家):

昨年に引き続き参加してくれたアーティスト。

動物と装飾品をモチーフとした超絶技巧の鉛筆画を制作。

1点に数ヶ月かけて制作された鉛筆画からは、

動物への深い愛情と、その存在としての美しさを創造的に表現する

徹底した意志が感じられます。

 

会場では梁さんとともに公開制作を行い、洗練された技術によって

見る人を楽しませるとともに、絵を描き続ける際の具体的な方法論や

思想的背景について現場ならではの交流を行いました。

 

また、会期中の参加メンバーの昼食タイムには、去年から恒例の

福崎翼手作りおにぎりが毎日日替わりで用意され、

山形のお米を使ったおにぎりの驚愕的美味しさは、

毎日の会場での活動を活気付けてくれました。

 

 

 

 

 

「坪庭」

通り庭の先に広がる中庭。

 

山下圭介(招待作家)、中島(4回生)、狩野(画家、奈良教育大学教員)

の3名で展示構成を担当しました。

 

山下圭介(招待作家):

彫刻作品やインスタレーションを手がけるアーティストで、奈良教育大学で

彫刻の非常勤講師をご担当いただいています。

 

坪庭全体に、様々な彩色を施した板材とキノコの形をした木彫作品による

大掛かりなインスタレーションを制作いただきました。

展示開始2週間前から現場入りし、あらかじめ制作した木材ユニットを

庭の形状に合わせて現場で加工、設置していただきました。

 

10月は雨や台風などの悪天候が続く中で作業を行い、

もともとあった庭の空間に絵を描くようにカラフルな板材が配置され、

庭の存在感を増しながら創造的な飛躍もある異空間が出現しました。

 

 

 

 

 

 

 

中島(4回生):

廃材などの立体物を作品制作に取り入れ、

アッサンブラージュと描画を組み合わせた作品を制作。

 

廃材に繊細な描画を加えたオブジェや、

絵の具を何層にも塗り重ねた絵画作品は、

一義的なメッセージ性に還元されない詩情を兼ね備えており、

長い歴史を有する町家に配置されると、

異質なはずなのにとてもマッチしていました。

会期中、作品の前に蜘蛛の巣が張ったりして、

景観全体との緊密な連関が生まれていました。

 

 

 

 

狩野(画家、奈良教育大学教員):

奈良を始め、国内外の様々な場所で取材したモノをモチーフとして

制作した絵画を展示。

現実世界において、役に立たなくなったモノや

美的価値を持つものとして注視されることが少ないモノに注目し、

それらの物質もそれぞれの記憶とパースペクティヴを有して

現実世界を作り上げているという世界観のもと、

自身と現実世界の存在の連関をテーマに制作しています。

 

『絵の家』の基本コンセプトや展示テーマは、

狩野の個人的な実感と問題意識と密接に結びついており、

『絵の家』プロジェクトは、個人の作家活動と教育、地域をダイレクトに

結びつける試みが出発点となっています。

 

 

 

 

 

 

「つし2階」

町家特有の天井の低い2階部分。

古くはお手伝いさんの居住や物置として

使用されることが多かったようです。

 

矢崎(4回生)、田浦(3回生)、藤山(3回生)の

3名が展示構成を担当しました。

 

 

 

 

田浦(3回生):

空や町並みの風景を一貫して描き続けています。

「自身が美しいと感じるものを素直に描きたい」という思いで

描かれた風景画は、素直であればあるほど

そもそも美しさとは一体何なのか、

美しいと感じるのは自分自身の中に形成された文化や感情なのか、

それとも本性的に美しい存在があるのか、

といった問いを見る人に生み出してくれます。

 

 

 

 

矢崎(4回生):左

人物の行為や身振りの表現と、絵の具の重色による効果を研究しながら

制作をしています。

友人をモデルとして、食べる、寝るといった人間の根本的な行為から、

演じる、描くといった創造的な行為など描き、その存在感を

膠絵具による重ね塗りによって表現することを試みています。

 

藤山(3回生):右

西洋美術史に興味を持ち、現在フランスに留学中。

神話などの物語と新古典主義的な画面構成の研究を試みた習作を出品。

 

 

 

 

また、留学先のフランスで風景画を制作し送ってくれました。

美術に限らず、日本とヨーロッパの共通点と相違点について、

肌で感じながら描いた作品は、

後の研究や制作に重要な示唆を与えてくれると思います。

 

 

 

 

2回生授業作品:

絵画表現との関わりの観点から、Photoshopを用いた画像加工に

ついての基礎的な知識と技術を学び、現代における絵画表現の

広がりを理解し活用する授業での課題作品です。

 

大学構内の自分にとって大切な場所を「マイ聖地」として写真撮影し、

画像加工した資料をもとにドローイング作品を制作しました。

展示するための額縁は昨年のゼミ生が作ってくれたものを活用。

 

 

 

 

附属幼稚園園児作品《絵の家》

附属幼稚園の園児約60名が制作した7個の家型の作品。

『絵の家』プロジェクトの命名のきっかけにもなっている

象徴的な作品です。

会場ではお絵描きコーナーや関連書籍コーナーなど、

様々なコミュニケーションスペースとして活用しました。

 

 

 

 

 

 

会場では、作品展示に加えて

毎日日替わりでワークショップを開催しました。

 

昨年同様に、会場に立ち寄った方々が、いつでも参加できるよう

開始時間などを設けず開場時間中自由参加型としました。

 

実施したワークショップは以下の通りです。

10月27日(金)

「ペンで植物を描こう」

奈良で見られる植物をペンで描き、植物とペン画の魅力を体験します。

 

10月28日(土)

「Here We Go! 100号!」

100号のキャンバスにいろいろな画材で絵を描きます。

 

10月29日(日)

「こすってぼかして!アニマル」

ぼかしの技法を使って動物をいつもと違うように描いてみましょう。

 

10月30日(月)

「鉛筆で宝石を描く」

キラキラ輝く宝石を鉛筆で描くポイントをレクチャーします。

 

10月31日(火)

「鉛筆で眼を描く」

自分の眼をよく観察して鉛筆で描きます。

 

11月1日(水)

「木炭で描く今井町」

今井町の町並みを原始的な自然素材の木炭で描きます。

 

11月2日(木)

「木炭で描く今井町」

今井町の町並みを原始的な自然素材の木炭で描きます。

 

11月3日(金)

「キミも工場長!ガラクタ工場 in 今井町」

いらないものを素敵に変身させます。

 

11月4日(土)

「鉛筆だけでグレーの塗り絵」

鉛筆の濃淡を生かして鉛筆だけの塗り絵を体験します。

 

11月5日(日)

「重なる色の世界」

様々な素材を使って色の重なりの面白さを体験します。

 

たくさんのご参加ありがとうございました。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

また、今年は会期中イベントとして、

日本学術振興会特別研究員(東京藝術大学)の日高翠さんをお招きし、

特別講演「壁画修復の現場-文化財を守るということ」を

行いました。

 

壁画、保存、修復についての基本的なお話から、

セルビア、コソボ、中国、カンボジア、アフガニスタンの

事例について、

日高さんのご経験と研究に基づいた大変興味深いお話をいただきました。

講演終了後は、ご来場の方々から様々な質問があり、

今井町で世界の文化財保存について学ぶ刺激的な機会となりました。

 

 

 

 

昨年からスタートした『絵の家』プロジェクト。

去年の成果と課題をもとに、また新たな体制と内容で実施することができ、

多くの方々にお越しいただき、無事に終了できました。

 

ご協力いただきました、はならぁとの実行委員会、事務局の皆様、

今井町の皆様本当にありがとうございました。

 

また今回の展示では、

個々のメンバーが自身の意見を積極的に主張し、

自分の作品だけでなく、他のメンバーの作品や会期中の活動も含めて、

よりよいプロジェクトにする方法を考えていました。

とにかく気合いと熱量をがっつり詰め込んだプロジェクトになりました。

 

2年目のプロジェクトを終えて、

あらためて地域アートの現場は、まちづくりやアートの場であるだけでなく、

教育の現場として重要な意味を持つことを実感しました。

 

 

メンバーは今井町の地域性や会場となった景観支援センターの特色と

個々人の作品制作や教育、研究における課題は、一体どのような関わりがあるのか

嫌が応にも考えさせられます。

そこに寄り添うことと敵対することとの間に多様なグラデーションがあり、

それぞれのパースペクティヴの関係性によって

それまで気づかなかった新たなイメージや世界が作り上げられる可能性を実感しました。

 

今回の展示テーマを構築する際に参照したベルクソンが語っているように、

持続することは変わり続けることと同義であり、

今回のプロジェクトを新たな展開へとつなげていきたいです。

 

ありがとうございました。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

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